風邪を引いたアル(弟)

ハイデリヒが死んでない、パラレル大歓迎の
兄弟とハイデリヒ同居バージョン
おにいちゃんず?

05.09.18

出来れば前に「風邪を引いたエド」を読んでください〜
話に関連はないんですが
一緒に書いた話です!


「絶対にこっちがいいって!」
「いや、こっちを先に準備すべきです!」
リビングで、なにやら喧騒感漂う二人がテーブルのあるものを中心ににらみ合っている。

「…い、一体どうしたのさ…?兄さん、アルフォンスさん…?」
寝巻き姿のアルフォンス・エルリックは咳をしながらドアにもたれかかるように部屋から出てきた。

「アル!何で起きてくるんだよ!」
「アル君!まだ寝てないと!」

 エドワード・エルリックとアルフォンス・ハイデリヒはほぼ同時に大きな声を上げる。
 そういうなら、心配させないでよ…と言う含みを持たせた表情を二人に向けるが、二人はまったく気付いてない。

「アル!まだ寝てろよ、熱あるんだろ?」
「大丈夫ですか?アル君!」

「お前、風邪にはやっぱりこれがいいよな?」
「それじゃないでしょ?やっぱりこっちですよ!」
…とまた二人が同時に喋る。
 アルは二人が持つ自己の主張する対象物に視線を移動する。

 エドワードが持っているのは「アイスクリーム」
 アルフォンスが持っているのは「リゾット」

「体が熱いんだから、やっぱり体の中から冷やさないと。風邪の時の見舞いと言ったらこれだろう!

「何言ってんですか?風邪のときこそ栄養をつけないといけないんですから、消化のよい栄養のあるものを食べるべきなんです。アイスクリームなんかでは、栄養が取れません!」
 アルは、それらの二つの用意されたお見舞いの品と二人をまじまじと見ては、ため息をつくのだったが、それに気づかずに二人は続ける。

「そんな体が熱いときに熱いもの食べてどうするんだよ!」
「だからこそです!これは東洋で食されている米をベースを野菜スープで煮込んでるんですから、栄養は満点です。冷たいものはかえっておなかを冷やすじゃないですか?」

「体を冷やさないとだめだろう!」
「風邪を引いているときは消化吸収能力が落ちているんです!冷やすのは大敵です!」

「じゃあ、熱がどんどん上がりっぱなしじゃないか?」
「人間の発熱には限度があります。そんなことはありません!熱は体がウイルスと戦っている証拠ですから、熱は仕方ないんです。だから抵抗力をつけるためにも栄養を取らないといけないんです!」

 ああいえば、こういう。まさにその典型で二人はどっちかが何かを言えば、言い返す、まさに人間に備わっている反射運動のようである。
 しかし、エドワードとアルフォンス、どちらの言っていることも一理はあるのだが、逆を返せば一理しかない。どちらも正しくもあり、それがすべてを包括する正解でもない。
 要するに風邪の対応方法なんて、土地が違えばやり方も考え方も違うからだ。
 何処にポイントを置くかで方法が異なるのであるから、二人のやり方は正しくもあるが、それを正しいとは思わない人々もいるわけなのである。

 まあ、こんなことは、風邪の対応だけじゃなくてすべての物事にも当てはまることであるけれど、それは今は余談としておこう。

「こっちが適した見舞い品だ!」
「いえ、僕のですよ!」
 決めたことは、ちゃんと信念を持って貫く…言葉にすればいい響きであるが見方を変えれば、自分の考えや価値観を絶対に曲げない頑固者…
 エドワードはまさにその典型であると思っていたが、アルフォンスまでとは思ってみなかった。でも考えてみれば、以前聞いた話では、アルフォンスは未成年ながらも、オーベルトの元でロケット液体燃料の研究の中心人物になり、あの大きなロケットが飛行に耐えるだけのエンジンを作り上げるくらいの、科学者であった。ミュンヘン一揆の騒動に巻き込まれて,アルフォンスの作ったエンジンはその設計図もなくなり、現物も破壊し、発表されることなく闇に葬られてしまったが、世間に出ればセンセーショナルな開発であったのは間違いない。
 エドワードほどではないが、並大抵の学者馬鹿ではないけど、頑固者でなければその年齢にしてはそれほどの偉業は達成できなかったであろう。

 その頑固者同士が衝突するとこうなるのか…とアルは二人のやり取りを少し遠い目で眺めつつ、高熱にうなされつつも感じていた。

「じゃあ、こうなったらアルに決めてもらおうぜ!」
「望むところです!」

 なにやら話が進展したらしい気配を感じて、改めて二人を見ると四つの瞳が自分を凝視している。

「アル、どっちが欲しい?アイスクリームだよな?」
「アル君、お腹が空いたよね?リゾット美味しいよ!」

 まったく…勘弁してよ…と、満面の笑顔がオプションされたその二つの差し入れを見て、アルはため息をつく。

「お前のことをよくわかっているのは兄である俺だよな?」
「僕なんてまさに分身のような存在ですから、アル君のことは自分のことのようにわかっているつもりです!」

 この人たちは…とさらに大きなため息をつくアル。

「俺だよな?」
「僕ですよね?」

 アルに詰め寄ってくる二人。

「煩い…」

 ため息と冷笑をたたえつつ、壁にもたれかかり二人を見ていたアルがようやく返した一言。

「は?」
「はい?」

 こんなときまで二人揃って返事をする二人に、もはや呆れてしまうアルであったが、さらに続ける

「煩いって言ったの。わかる?二人の気持ちはわかるけど、今の僕には何より必要なものはなんだかわかる?」

「だからアイスクリームだろ?」
「栄養のあるリゾットですよね?」

 今まで何度もため息をついていたアルであったが、さらに大きなため息をひとつ。

「今の僕に必要なのは静かな環境です。少しは黙って僕を寝かせてください!」

 言葉自体も十分に迫力があるのだが、それ以上に今まで見たことのないような冷笑をたたえるクールビューティが醸し出すその圧迫感に二人はそこはかとない何かを感じて、思わず後ずさる。
 人間も動物である。その動物が生物として直感的に持っている逃避行動のように。

「…」
「…」

 蛇ににらまれた蛙ではないが、アルの雰囲気に圧倒され固まってしまった二人。持っているそれぞれの差し入れを落とさなかったのはまさに奇跡と言えよう、そんな感じであった。

「僕のことを心配するなら、本当に静かな環境を提供してください…」

 いつものアルなら決してこんなことは言わないが、高熱という非日常的な現象がいつもの思考力と対処能力を低下させていた。

「煩いんだよ!」

 とうとう言葉を荒げて一言怒鳴ると、それを機に力を使い果たしたのごとく、壁にもたれかかった崩れ落ちてしまう。

「ア、アル!」
「アル君!」

 ようやく我に返って、手に持っていたものをあわててテーブルにおいて、アルに駆け寄る。アルは自分を抱きかかえるその手の感触に、手放していた思考力を取り戻す。そして、自分がどんなことを言ったかも改めて思い知る。

「ご、ごめんなさい、兄さん。アルフォンスさん…」

 見上げると、アルフォンスに肩を抱きかかえてもらっていて、その正面にエドワードがいて、心配そうな瞳を自分に向けていた。

「アル!ごめん。俺たちお前の事考えないで、自分のことばっかり押し付けようとして…」
「すいません、アル君、つい夢中になって、僕の不注意でした…」

 あんなひどい言葉を投げたのに…。

「本とごめんな。アル、大丈夫か?」
「アル君?大丈夫」

 他の言葉を忘れてしまったかのように自分をいたわる言葉を連発する二人を、高熱で重くなった瞼を必死に開けながら見ていた。

「…二人とも…ありがとうございます…では、お願いがあるんですが…」

「なんだ?」
「何でも言ってください!」

 アルの言葉に、すばやく反応する二人。

「兄さんは、テーブルにあるアイスクリームを冷蔵庫に閉まって、リゾットを適切に保存してください。あとで食べますので。アルフォンスさんは申し訳ありませんが、僕をベッドまで連れて行ってくれませんか?」

「わかった」
「じゃあ、アル君ちょっと失礼しますね。」

 エドワードは台所に向かい、アルフォンスはまず方膝を立ててから勢いをつけてアルを簡単に抱きかかえる。

「…ありがとうございます、ちょっともう立つ体力もなくて…」

「遠慮は無用ですよ、アル君。急ぎますからね!」
そういいながら、なるべく揺れないように最大限の注意を払ってくれているのがわかる。
部屋に入ると、優しくアルを横たえて布団をかける。
「大丈夫ですか?あとは任せてください」
 優しくアルを見下ろすアルフォンスの瞳を見ると、重たかった瞼がさらに重くなる。
 そのまま眠りに入りたいが、これだけは言わないと。

「アルフォンスさん…兄さんと仲がよいのはいい事ですが僕のことも仲間はずれにしないでくださいね…」

 それだけ言い残すと、さらに瞼が重くなり、視覚情報が遮断してしまう。

「何を弱気になってるんだい?アル君。僕もエドワードさんも君が可愛くて仕方ないんだよ。心配しすぎちゃって、今日みたいなことが起きちゃってごめんね。」

 わかってますよ、あなた達が僕を大事にしてくれることは。でも。それほどまでに息が合ったあなたたちを見ると、どうしても。どんなに大切にしてくれることがわかっていても、多少嫉妬してしまうんです。
 兄をあなたに取られてしまったようで。でもそのぶんあなたも自分に肉親以上の愛情を注いでくれる事を実感できる自分を持て余してしまうんです。。
 今までこの世に信じられるのは、兄さんと僕お互い二人だけだったなかに入ってきた不定因子であるあなた。
 安定していたふたつの点の中に自然に入り込んで溶け込みつつもうひとつの点。永遠と思っていたふたつの点がみっつの点となり、直線でしかなかった世界にひとつの点が入り込み、三角形を形成する。
 直線よりもより安定性のあるはずの三角形。でも、心が時々寂しくなることがある。
 
「アル君…?もう寝ちゃいましたか?」

 アルフォンスの声が遠くに聞こえる。返事をする力もないのでそのままアルフォンスの声を子守歌のように聴く。
 あなたが自分を本当の弟以上に、兄さんと同じくらいに自分を大切にしてくれる。そして同じほどの愛情を兄さんにも向けている。愛情のベクトルは同じだけ自分に向けられているのがわかっていても、どうしても気弱になってしまう。
 突然現れたあなたは、僕たちのように空気のように入り込んで。そして僕と兄さんの間にはなかった安寧な空気をくれた。
 
 自分を心配するあまりに喧嘩までしてくれる二人の兄さん。年下の自分が言うのもおこがましいかもしれないが、二人を愛らしく思う。

 ありがとう。
 仲のよい二人を見るのは時々嫉妬しちゃうけど、寂しくはないよ。
 僕のこともちゃんとかまってね。わがまま言わないからさ。
 
 そういつか伝えたいな…と思いつつ、今は体の欲求に体を任せて我慢を放棄し意識を手放した。

****おまけ****

「アルフォンス、アルは寝たか?」
 アルに指示されたことを終えて、エドワードが部屋に入ってきた。
「あ、さっき寝ちゃいました。今はいい寝息を立ててますよ?」
 椅子をベッドサイトに引き寄せどかっと座るエドワードに、人差し指をそっと口に当てて、静かに、とゼスチャーをする。
「…おっと。起きちゃうな…」
「本当にぐっすり寝てしまったので、起きることはないと思いますが、そんなに積極的には大きな音は立てないほうがいですね」
 二人して、横たわるアルの寝顔を見ている。

「…」
「…」

 なんとなく押し黙る二人だったが、しばらくの沈黙のうちに一言。

「アルはお前にやらないぞ…!」
それを多少びっくりした表情で受け止めつつ、
「選ぶのはアル君でしょ?あなたの所有物ではないはずですよ?」
アルフォンスは微笑で返す。
「お前のその余裕な顔が気にいらねえ…」
「おかしいですね、基本的な顔の作りはアル君と一緒なんですがね〜?」

 つまり、エドワードとアルフォンスはアルが可愛くて仕方ないのだ。初対面でアルフォンスは魂が通じる何かを感じ取り、エドワードは久しぶりに再会したけが、その可愛い、愛くるしい表情にまさに兄ではいられない、心の底から湧き上がる感情を確実に感じ取っていた。

「アルフォンス、勝負だ!」
「それはかまいませんが、今はアル君の看病が先です。そんなこともわからないんですか?」
「〜!むかつく、またその余裕な表情!」
「余裕なんてあるわけないでしょ?あなたとアル君の間に入り込む隙なんて何処にもないんだから、僕だって必死ですよ。」
 兄弟の絆は、どんなことがあっても切れることはないが、この二人の絆は生半可なものではない。それがわかりすぎるほどわかっているアルフォンスであった。

「…でもさっきアルはお前に部屋に連れて行ってくれるように頼んだ…」
「なに、些細なことを言ってるんですか?あなたにアル君が運べますか?身長の差ですよ…そうですね、僕があなたに勝てるわずかなことが今回は有利になったようですね。悔しかったら身長伸ばしてください!あ、でももう18歳で成長期は終わったかもしれませんね?」

「誰が豆粒ドチビで、踏み台に乗らないと気づかないだ〜!」
「静かにしなさい!エドワードさん!」
 アルフォンスがエドワードの口を塞ぐ。最初はなにがなんだかわからなかったが、唇で唇を塞がれていたことに気づく。
 何すんだ!と抵抗するが、アルフォンスはしっかりと後頭部を右手て背中を左手で抱きとめていて身動きが取れない。
 しばらくして、エドワードが脱力するのを確認して、アルフォンスはゆっくりと体を解く。
「お、お前…」
「何、たかがキスごときで動揺してるんですか?」
「お前アルが好きなんじゃないのか?」
「アル君も好きですが、あなたも同じくらい好きですよ。」
アルフォンスは悪びれない笑顔でそう一言。
「…」
「ここにいるとどうやっても騒いでしまいますね。僕たち。部屋の外に出ましょうよ。あ、僕バケツの水変えてきます。」
と、さっきのことなどまったく気にしてない様子で、バケツを持って部屋を出て行ってしまった。

 残されたエルリック兄弟。
「俺たち…とんでもない奴に関わっちまったのかなあ…?アル?」
 そうエドワードは寝ているアルにつぶやく。もちろん答えはないが、アルの吐息を無意識で数えつつしばらく顔を眺めてしまう。
 アルにだけしか向けられてないと思っていた視線が、自分にも向けられていたことに気づいたエドワードは、なんとも不思議な気持ちであったが不快ではなかった。むしろ嬉しいような、そんな感じ。

  三者三様の意図が混在するこの関係。不思議と嫌悪感はなく明日も続いていくだろう。

 夏風邪を引いた時に「ハイデリヒ」ごっこをしていたときに出来たバージョンです。
 ハイデリヒ…が生きていたら、こんな感じに弟を取り合うんじゃないかな?という私の希望です!!
 パラレルワールド、大歓迎!
 私だったら、こんな可愛い弟がいたら絶対に独占する!確実にする!
 
 ラストがラストなのでアップするのは考えたんですが…反転させてアップ〜。
 楓はこんな話が大好きです…

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