「ふたりでいつまでも」

PASH vol4のポスターをご用意ください!(笑)

映画後の話で、髪きった弟とエドが沢山の本の中で勉強しているんですよ〜
んでその隅にはハイデリヒの写真が飾ってあるのさ!!

カップリングはないです。
同人を知らない友人にも見せられる話です!

05.9.22


 積み上げられた本、本、本。その分野は学術書からダイムノベルまで多岐にわたる。
その中に埋もれるように二人の青年が、会話を交わしている。

「だから、この重力の理論はニュートンの万有引力を使うんだよ」
と、説明を続けるエドワード。
「万有引力は惑星がものを引き寄せる力で、電磁気力では引力と斥力が発生するのに、斥力は反発しあう力だ、重力では引力しか発生しない。重力はを定数をG、物体の質量をM、距離をdとして、この公式に当てはめると、物体の重力が求められる。」
「どうして、重力には斥力が発生しないの?」
その説明に対して、弟アルは至極単純に質問する。
「それについては、正直うまく説明できない。俺も引っかかったが、そういうもんだって思って次に進んだ。」
と、あっさりとエドワードは説明を放棄する。
「兄さんが、わからないことをそのままにしておくって、珍しいね?」
「実際、『あること』までは追求できるが、そこから先はそんなものだって、理解したほうがいいことがあるんだよな。パスカルの定理とか、多項定理など数字で解決できる理論は目を張るものがあるけどよ、だから仕組みを理解すれば、応用できる。でもまず、どうしてだかわからないけど、とりあえずそうなんだって事象を捉えてから、それがどうして起こるかっていきさつを考えなければいけない自然現象もある。例えば、太陽が東から西に昇るのは、もうガリレオなどの理論で説明は出来るが、どうしてそれが東から西だったのか?西から東ではいけなかったのか、そう思うが、それから考えると終わらないもんなんだよな。」
 エドワードは手にした本をいくつか閉じながらため息をつく。

「確かに、数字の理論とかの考え方って僕たちの世界ではあまりなかったよね?詠唱や錬成陣などによる理論の流れだもんね。」
新しい知識を積極的に得ようとしているアルを、エドワードはこつんと持っていた本でこづく。
「こら!もうこの世界が『俺たちの世界』であって、あっちの世界はもう俺たちの世界じゃないぞ?」
 アルは指摘を受けてはっとした表情になる。
「そうだよね。僕はこの世界を選んだ。兄さんと生きるために。」
 それを聞いて、エドワードは自分の運命に弟を巻き込んでしまったかもしれないとか、感じる。でも、考えてみたら身よりもないのだから、兄弟二人何処の世界で生きたって同じなんだよな、など複雑な顔をする。
「俺たちは選んだんだ。この世界をな…。」
 その思いを断ち切るかのように、はにかんだ笑顔を見せる。
 自分が、そして弟はこの世界にいる。もう、帰る事出来ないあの世界。会いたくても、もう二度と出会えない顔がある。でも。それを嘆くのは無意味だ。時にはあの世界を懐かしむことも必要な時期があるかもしれないが。それは今ではない。今は立ち止まらずに前に向かって歩く。後ろを向かずに。
「そうだよね…僕は選んだ。兄さんと生きるために…」
 ふと二人は遠くを見つめる。すでに二人の記憶の中でしか思い出すことが出来ない故郷を。

 俺たちは、他の人が知ることが出来ない二つの世界を知った。でも二つの世界、どちらの世界に所属しているなんて、そういう帰属意識は持つべきじゃない。

「俺たちはこの今立っている世界ここが帰るべき場所だ。生きて、呼吸している。俺たちは世界によって生かされていて、世界は俺たち個々の集合体によって成り立つんだよな…」
 
 誰に語りかけるわけでもなくつぶやくエドワードを、アルはじっと見ていた。

「世界のことなんて、俺、考えたことなかった。錬金術が使えないこの世界で、俺はなんてちっぽけな人間なんだろうって…なんて無力なんだろうって…。あっちの世界では、錬金術が使えたからこそ価値があったんだろうか…とかな。だから、この世界の俺はクズ以下ってそこまで考えたこともあったな… 理論も考え方も違うこの世界で俺に出来ることなんて…何もなかった…。干渉する事も出来ずに…無力だった…でもそうじゃなかった…俺がここにいる意味を…俺がここにいてもいいって、認めてくれた奴がいたんだ…」

 エドワードは脇にあった写真立てをそっと手に取り、写真に優しい微笑を投げかける。

「もっといろいろ話したかったな…。あっちの世界のことじゃなくて…この世界の、いろんな事を…」

「どんな話をしたの?」
 一段楽したのを見計らってアルは問いかける。
「…そうだな…。あいつの話ってあんまり思い出せないや…俺が、どんな事を話したかって言うのは思い出せるんだけどな…」
 今はそばにいない彼を、写真を通じて思い出しているのか…。ともすれば泣きそうにも見える。

「そんなことないでしょ?日常の会話とか、一杯話しているでしょ?そうでなければ、兄さんがこの世界でやってこれたわけないもん。たぶん、アルフォンスさん、兄さんの日常生活をとても心配してくれたんじゃないの?この部屋を見ればわかるよ?」
 あなたには日常生活適応力ないんだから、と断言する弟を兄は少し憤慨するような表情で見た。
「…そうだったな。あいつにも『少しは日常の生活のことに関して気を配りなさい』って言われたっけな…」
 前髪をかきあげた瞬間、流れた涙。
「あまりにも生活に溶け込んだ会話だったからだよ、すぐに思い出せないのは。ひとつひとつ思い出していこうね」
 流れる涙を隠そうとせずに、彼を思い出すエドワードをしばらく見つめいてたが、肩に手をかけて、微笑んだ。
「そうだな、似た顔もそばにあることだしな…」
アルは思わずそばにあった鏡を見る。
「そんな似てるかなあ?」
「髪を切ったらますます似ているぞ?俺とお前より、あいつとお前の方が兄弟っていった方が人は信じるかもな?」
 エドワードは顎に手を当てて、写真と弟を見比べる。
「うーん、自分ではそうは思わないんだけどな?」
と納得がいかない顔をする。
「俺にもそっくりな奴がいたんだぞ。他の国だったけどな。初めてこちらの世界に意識だけ飛ばされたとき…俺は、そいつの中にいた。そして、親父に会ったんだよ。でもな、あいつはいきなり俺おのこと『エドワード君』って呼ぶんだぞ?なんて他人行儀なんだよ?お前の息子じゃないのかよ?ぐれてやるぞ!って思ったりしたりな。今となっては笑い話だな。」
ホーエンハイムとの再会について語りだす。
「ふーん、そんなことがあったんだ。じゃあ、やっぱり僕とアルフォンスさんは繋がりがあるのかな?」
「そうかもな?」
「…でも、アルフォンスさんの身代わりになるつもりはないよ?僕は僕だもん、代わりなんて。やだよ。」

(たとえ、もう命が尽きるとしても…僕は僕だ。確かにここにいる。忘れないで。)

「…もちろんだお前はお前。アルフォンスはアルフォンスだ。」
彼の最期の言葉を思い出した。

 目をそらすことなく、この世界を見つめ、歩いていこう。改めてそう思った。
 誰かの後ろに違う影を見たり、今ある現状を誰かのせいにすることもなく。この世界で生きる事を選んだのは自分自身。
 たまには、後ろを向いてしまうかもしれないけど、その時はお前を思い出して、また前を向くことにするぜ?
 写真の中で優しく自分に笑いかける彼にそう誓う。

「行こうぜ、前に。立って。自分の足で。」

エドワードはアルに手を差し出す。

「もちろん、二人なら歩いていけるよ。きっと」

手を握り返す。
写真を真ん中に二人新たな誓いを立てる。数秒後不思議と笑いが漏れる。

「…何感傷的になってんだよな、お互い…!さて、さし当たっては、アルお前にこの世界の理論を理解してもらわないとな…!ここだけの話、考え方や理論の違いは面白いとおもうことはあるよな。これは二つの世界を知った俺たちだからこその楽しみかな?」
 しばらくして、エドワードはイタズラ小僧のような表情をして微笑みながら言った。
「どんなことが特にそう感じた?」
 話題転換にすばやくアルも反応した。
「そうだな〜、まあ今はやっているニュートン関連ではパスカルの三角形とか二項定理とか、どうやって数字に法則を求めていくかなんていうところかな?比較しちゃいけないけど、これに限っては面白いと思ったかな?パズルみたいで。実際いろいろハイデリヒにも質問したんだけどよ、『そんなことに疑問を持つ人は今までいなかったですよ』って言われた。」

「あ、またひとつ思い出したね、アルフォンスさんのこと!」
「そういえば。結構話してるかもな…あいつと。それより早くこの公式理解しろ!」

 二人の勉強は続いていく。今日も明日も明後日も
 その傍らにはいつも同じ写真と共に。


  「PASH!」VOL.4の兄弟のポスターを見て錬成したネタです〜。
  万有引力のくだりは突っ込みどころ満載だと思いますが…すいません物理の分野あまり詳しくないんです…
  
  エドがホーエンハイムとの出会いの部分はハガレン放送局での「ハガレンレビュー」で朴さんが語った事をアレンジさせてもらいました〜。
  なかなかぴったりだったもので。
  
  ヤマもオチもない話ですが、こんな会話したんだろうな…?といろいろ想像できて楽しかったです。

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