05.8.26
「一緒に…!」 言葉を発しようとした瞬間、扉は閉められた。 ハイデリヒとエドワードを隔てる壁が、そこにできた。 「降ろせよ!ハイデリヒ!」 エッカルトが起こした一連の騒動の隙をつき、あっけにとられるエドワードを抱きかかえたハイデリヒは、工場の一角に向かう。 「降ろせって言ってるだろ、ハイデリヒ、何処に向かってるんだよ!」 そんなエドワードの叫びが聞こえているはずなのに、ハイデリヒは歩みを止めない。 「ハイデリヒ!」 エドワードがあまりにも叫ぶので、ハイデリヒはようやく足を止める。 「エドワードさん、少し黙っていていくださいませんか?僕も急いでいるので…このときしかないんです、あなたを…」 「だから、なんだって言うんだよ!」 「あなたを帰すのは今しかないんです!」 「帰す…俺があっちの世界に帰るって事か…?」 「そうです…急がないといけなんですから、もう少し黙っていてください。僕の両手はふさがってます、この状態であなたの口を塞ぐ方法は、あとひとつしかないと思いますが…」 「…!」 そういうと、ハイデリヒの顔がエドワードに近づく。何かを察したエドワードは、とっさに口を閉じ身をかがめる。 「そうです、もうちょっとですから…」 再び背筋を伸ばして、エドワードを抱えなおして再び歩き始めたハイデリヒが到着したのは小型ロケットの操縦席だった。 その操縦席に優しく、エドワードを降ろす、ハイデリヒ。 「あなたは帰ることができます。秒速11キロを超えるこのロケットならば、扉の中で起きる現象を突破できる…」 「俺は…あちらにいくなんて…言ってない!」 「僕が行って欲しいんです…」 「…俺が邪魔なのか…?」 「僕たちはあなたの夢の中の存在ではないよ、例え命が尽きるとしても…僕は僕だ。たしかにここにいる。忘れないで…」 「じゃあ、どうして俺を見ない!!」 エドワードはハイデリヒの頬を両手でつかみ自分のほうに向ける。 「俺を見ろ!俺が邪魔だから…俺を向こうに追いやろうとしているのか?」 顔はエドワードのほうを向かされていても視線ははずしていたハイデリヒが、その青い瞳をエドワードのほうに向けて、そっと言う。 「僕が、行って欲しいんです…僕じゃない、僕の後ろの誰かを見続けるあなたを…これ以上見たくない…」 「ハイデリヒ…」 エドワードは思わず手を離す。 「エドワードさん、僕は、そんなあなたでも…会えてよかったと思っています。短い人生の終わりに…夢を見れた…あなたと一緒にずっと過ごす、そんな夢を…」 「夢なんかじゃない!俺はまだ行かない!」 「今、このチャンスを逃せば、永遠に帰れません。それでもいいんですか?」 「…!」 エドワードは言葉に詰まる。多分一度しかないこのチャンス。逃すこともできない。 「さあ、行くんです、エドワードさん。」 「お、俺は!!」 「最後に…ひとつだけ…」 そういうと、エドワードの意思確認をすることなくエドワードを抱きしめる。 「…」 何も言えずにハイデリヒのされるがままになるエドワード。 「ありがとう…」 その言葉と同時に、エドワードは肩に何かを冷たく感じた。 エドワードは両手を自然にハイデリヒの背中に回した。その手が触れるか触れないか、その瞬間にハイデリヒは自ら身体を引き、エドワードを操縦席に固定する。 「エドワードさん、僕の事を忘れないで!」 そういうと扉に手をかける。 「ハイデリヒ! お前も一緒に…!!」 閉まる扉に、この言葉はかき消され、ハイデリヒに伝わらず、操縦席の中にこだまするだけであった。 「ハイデリヒ!」 エドワードにだって、わかっていた。一緒に行くことなんてできない。でも言わずにいられなかったその言葉。 発進するロケットの中で、届かないとわかっていても、ハイデリヒに向かって手を伸ばす。今まで弟に向かって延ばし続けた、その右腕を… その自分に伸ばせられた右腕を見て、ハイデリヒは笑みを浮かべる。 エドワードを乗せたロケットが見えなくなった瞬間に、銃弾に倒れたハイデリヒの網膜には、その手と、エドワードの笑顔が写っていた。 しばらくその場には爆音だけが、響いていた。 |
映画が終わって一番に書いた話。 台詞と一部シーンをわざと変えてあります(だって…気絶したまま運ばれるなんて…許せなかったんだもん…) 映画を8月26日現在で6回見たんですが、まだこのシーンでは泣きます… だってあんまりにもハイデリヒが可哀想で… 私ってハイデリヒが好きなんだ…と実感できるシーンです… |