アルフォンソマンゴー

7月15日はマンゴーの日です。
アルフォンソマンゴーにちなんだお話を…

「ねえねえ、兄さん!これ見て!」
 ただいまの言葉より早く、アルは手に持っていた小さい楕円の球体を満面の笑みでエドワードに差し出した。
 褒めて褒めてと、千切れんばかりに尻尾を振る子犬のようにつぶらな瞳を向けられたエドワードは、その、差し出されたものよりも、アルの表情に魅入ってしまった。

「兄さんってば!聞いてるの!」

 アルは差し出した手を、さらにエドワードに胸元に突き出した。
 ようやく視線をずらして、視線を「それ」にあわせた。
「アル、これは何だ?」
 黄色く細長い手に乗せたら丁度いいくらいの楕円形の物体。表面はつるっとして、触ると気持ちがよさそうな印象を持ったが、それがなんであるか?との答えは導き出す事はできなかった。
 エドワードにとって、はじめてみる物体だった。
「なんでしょー?問題です」
 アルは、それを顔の前で両手に包み込むようにして、エドワードの答えを促した。

 茶褐色の無邪気な瞳に、そのポーズ。エドワードは思考内で背景に思わずハートマークを飛ばしてしまったほどだ。

「…分からんが、あえていうなら果物…か?」
 エドワードは精一杯一言だけ返事をした。

 アルはいつも可愛い。
 毎日可愛い。朝も昼も晩もかわいい。
 
 毎日見ても見飽きる事がないくらい、新鮮に毎朝可愛いと思うエドワードにとって、今日のアルは暴力的なほどに可愛かったのだ。
 そこまで可愛くさせたそれが気になりつつも、そのしぐさにカウンターパンチを食らってしまった気分だった。


「はい、正解!果物でーす。果物の種類は何でしょー?」
 背伸びをして無邪気な顔を近づけてくる。エドワードとアルの顔は「それ」を挟んで至近距離になっていた。
 
「わからん」
 今度はさらに短い一言になってしまった。
もう我慢しきれない!とエドワードが抱きしめようと両手を広げ抱きしめようとするが、その腕は空を切る。

 アルは瞬間に後ろに踵を返したからだ。

「ええと、これはマンゴーって果物ですが、この果物の種類を応えてください」

 丁寧な口調で、アルは首をかしげてにっこりと口の端をあげて微笑む。
 エドワードはアルの肩に手をかけようとするも、また、手は空を切る。

「アルフォンス!」
 いつもより大きめの声で怒鳴ってしまう。エドワードは、しまったと息を呑んだ。
「だいたい正解ー!」
 アルが、片手にマンゴーを持ち替えて、空いた手をマンゴーに当てて小さく拍手をする。

「…へ?」

 応えたつもりは全くなかったエドワードは、その成り行きにきょとんとしてしまった。

「これは、アルフォンソ種ってマンゴーなんだって。マンゴーって東の温かい地方で取れる南国特有の果物なんだって。それで国によっていろいろな種類があるんだけど、その中でも特に味が良いとされるのがこれ、アルフォンソ種なんだってー」

 アルはアルフォンソマンゴーを指差して、色々と説明する。
 市場を歩いていた時に、自分と同じような名前の食品のラベルを見て、色々知識を仕入れてきたらしい。

「へー、そんな果物あるんだ、アルフォンスが、アルフォンソを買ってくるのか」
 駄洒落にならないほど、くだらないが、エドワードは思った通りのことを口に出してしまった。

「そうなんだ、僕、何となく嬉しくって。」
 アルは、素直に気持ちを述べた。

 生まれた国どころか、錬金術世界を捨てて、兄と一緒にこの世界を旅する毎日。
 そんな中に見つけた偶然。最後の文字が違えども、親近感を感じるのは当然なのかもしれない。

「じゃあ、それ、食べてみるか?」
 エドワードは、それとなく提案する。
「うん!ナイフもって来るね」
 台所に向かったと思ったら、小走りにすぐに戻ってきた。

「ええと、こうやって切るんだって」
 アルは、マンゴー縦に3分割する。外側の濃いオレンジ色に負けないくらいに、きれいな黄色い果肉が現れる。
外皮の屋根を持つドーム上のパーツと、中央の輪切り部分、3つに区切られた。
中央には大きな種があるので、どうしてもこういう切り方が、見栄えもいんだと、果物屋の売店の親父が教えてくれたそうだ。

左右のドーム状の部分の果肉の黄色い部分をさいの目に切れ目を入れて、皮の部分を押す。
すると、マンゴーの四角形の花びらを持つ花が咲いたようになった。

「はい、あーん」
 器用にマンゴーを切り分けたアルフォンスはそのかけらをスプーンですくい、エドワードに差し出す。
最近となっては久しいこの行為にエドワードは、照れくさくて一瞬ためらったが目の前の笑顔のアルにつられて、軽く口をあける。

 舌に乗せられた味は、酸味がありつつ甘みも十分に感じられる濃いうまみ成分だった。

「美味しいな、これ」
 エドワードは素直に感想を述べた。
「そうでしょー!」
 美味しい一品を見つけてきた手柄を自慢するようにアルは、軽く背を伸ばした。

「もう一口!」
 人間美味しいものを口にすると、一口では満足できないものだ。エドワードは再度要求してみた。

「じゃあ、今度はWアルで。」
 スプーンでマンゴーを一かけらすくうと、エドワードにではなく、自分の口に持っていく。そして唇でマンゴーを挟む。

「んっ」
 
 エドワードの少し開いた口に、アルはマンゴーを押し込む。渡しても、ちょっとだけ勢いをつける。

 二人の唇が一瞬重なり、離れる。エドワードの口には濃厚なマンゴーとあるの唇の感触だけが残った。

「アルフォンスとアルフォンソでWアル、なんてね。さて、兄さんはもう十分でしょー残りは僕が食べるね」

 エドワードがいきなりの出来事で動けなくなっている間に、アルはぱくぱくと、残りのマンゴーを口に運び、種の周りについては口に入れえて、美味しそうにかじっていた。

「あー、美味しかった!」

 エドワードが、気付いた時にはアルフォンソマンゴーの食べかすだけが残っていた。




後日。

 エドワードは市場でしていた時、アルフォンソマンゴーと再会した。
 この前、ほとんど食べられなかったんだよな、と、購入しようとオヤジに声をかける

「よ、兄ちゃん、気前いいね、これ高いけど本当に買えるかい?」
 そんな言葉が返ってきた。
 じっくりと値札を見ると・・・それは普段の1日の食費の10倍ほどの値段を示していた。

「だって、これは遠い遠い、アジアの国で取れた貴重な果物の中の、さらに王様って言われている種類でさ、かなり貴重なんだよ。お前さんに買えるのかい?まあ、味は絶品だけどな。」
 疑問そうな顔をしているエドワードに、こんな説明をしてくれた。

 (アルは、これをいくらで買ったんだろう?)

 最近アルにまかせっきりになっていた家計の管理に、ふと危機感を覚えてしまった。

7月15日はマンゴーの日です。
マンゴーの収穫が最盛期を迎える時期だからということらしいですが…

アルフォンソマンゴーを集め始めてはや3年。
そろそろ200を越しそうな勢いです。多分、今ピックアップしているのもたくさんあるので、近日中に200超えると思います。

かねてから、書いてみたかったアルフォンソマンゴーネタ。


本当はアルがマンゴーを手に入れたいきさつなども詳しく書きたかったのですが…うーん。

とりあえず、今はアルがマンゴー持ってにこにこしている姿しか想像がつかなかったもので♪


来年はハイエドでやりたいなーと思いつつ・・・