Xmas Cake  アルエド

映画後、こっちの世界を2人旅しているアルエド


コロワイド系列 遊食三昧 NIJYU-MARU メニュー クリスマスツリー

「お店からのサービスです。MerryXmas!」
 ウエイトレスの女の子は、騒々しい店内に通るような声をあげながら、食後にコーヒーを楽しんでいた二人のテーブルにスプーンを置いた。
 そして、次に。

「あの…これななんですか?間違いでは?」
 アルがその置かれたプレートをみてから、呼び止める。
 星型のプレートの中央に、三角の形のブラウニーが数枚、それぞれの底辺を下にクリームの土台に立てかけられている。それを取り囲むように生クリームが飾られていて、まるで教会の三角屋根のようだ。本来なら十字架がある場所には赤いチェリーがその場に彩を添えていた。

 女の子は次のオーダーを運ぼうと踵を半分返していたが、お客様からの声はひとつも逃さない、ウエイトレスのプロであった。
「はい、今日はXmasですから、サービスとして、お出ししています。」
 トレイを前にしっかりと持ち、テーブルの正面に立ち、にっこりと、通る声で元気に返事をする。接客態度はかなり抜群である。
「へー、そうなんだ。全員にサービスるるなんて太っ腹だな、この店は」
 向かいに座っていたエドワードが、コーヒーカップを片手に身を乗り出してきた。
「そうだよね、こういうサービスを受けると嬉しくなっちゃうよね。」
 2人は思わず、微笑んでしまう。
「あ、いえ。全員にサービスって訳ではないんですが…」
「え?そうなの?」
「はい、カップルの方に限定してサービスをさせてもらっております。…それでは、最後までごゆるりとお楽しみください」
 他のテーブルから声をかけられて、一礼をして去っていってしまった。

 その後、思わず目をあわす2人・・・

「カップル?」
 最初に言葉にしたのはエドワードだった。そして、弟アルフォンスの姿をまじまじと見つめた。
「…僕だろうね…女の子に見えたのは…」
 大きく溜息をついてアルはうなだれてしまった。
 ウエイトレスの子が間違えたのも仕方がない。
 抜けるような白い肌と丸い大きな瞳、顔と首筋の細い線はその顔立ちをより引き立たせている。狭い肩幅、そして、肩を軽くなでる軽い金の柔らかそうな髪。よく見れば、男であるのはわかるかもしれないが、ぱっと見はどう見ても「可愛い女の子」に写ってしまう。
 服も、いつもは灰色とかの暗い色のジャケットを着ている事が多いのだが、今日に限ってはXmasだとだからラフな格好をしてきた。きちんとアイロンのかかった襟が目立つワイシャツにベスト。ボーイシュな女の子の出来上がりである。

「はあ…年相応にってのは諦めているけどさ、でも、そろそろ男には見られたいなあ。」
 さっきより大きい溜息をまたひとつ。
「そんな事ないって、得することもあるだろ?こうやってさ。」 
 エドワードは、なだめるようにケーキを指し示した。実際、アルの外見のおかげで過去に何度もオマケしてもらったりなどはあった。アル自身もそれを利用しているフシもあったが、意図していないときに間違われるのはやはり気になるもらしい。
男としての沽券に関わると零すが、そんな風にいじけている姿もエドワードにとっては可愛くて仕方ないのである。

 この世でたった一人となってしまった身内を大事に思う気持ち以上に、日々心の中で育っていく気持ちを感じていた。
 
 今は「かわいい」毎日、24時間一日離れている時間のほうが圧倒的に少ないのに、日々垣間見る新しい顔。
 
 がっくりとうなだれるアルフォンスのつむじが見える。すこしうつむくと頭につむじが見える。思わず指でそれを…突いてしまいたくなる衝動を抑えながら、ぽんと頭に手を乗せて慰めをこめて軽くなでる。

「兄さん、僕、かわいいなんて他の人にいわれても嬉しくない…」
 アルは手を頭に受けたままの姿勢で答えた。
「そんな事いっても…兄の眼から見ても、今のお前かわいいしなあ…」
「…兄さんまで…」
「だって、事実じゃん。お前はかわいい。」
 エドワードは思わず、心のうちを出してしまった。しまった、と思ったが、だって嘘偽りない正直な気持ちだ、と開き直ってみだれそうになった語尾を整えた。
「…兄さんの方がかわいいよ…」
 アルがようやく負けずと顔を上げた。
「なにいってんだ、俺はお前よりかは多少身長もあるし、すでに可愛いって感じじゃないだろう?」
「…夜は兄さんの方がカワイイのに…」
 眉間に皺を寄せて、片頬をぷーと膨らます。「拗ねた顔可愛さグランプリ」なんてあったら優勝してしまうのではないかってくらいの微笑ましい顔だったが、発した言葉はかなりきわどい。
「…ば、ばかお前…」
 最初、何のことかわからなかったがすぐに、頭の中で思い当たる出来事を思い出して頬を染める。
 形勢逆転だ。

「夜中はあんなに可愛い声なのにね?…それでも僕のほうが可愛い?」

 夜だけに見せる、あの、顔をした。
 エドワードはじくんと体の中で感じた。すでに条件反射になっているのだった。でも、ここで何をするわけにもいかない。ごくんとつばを飲み込んで、気付いた感情を心の奥に再度押しやった。

「はいはい、わかりましたよ。お前はカッコいいよ」
 話しをとりあえず切り上げてみた。これ以上話しを続けるとどうなるか、まったくわかったもんじゃないとエドワードは苦笑した。
 アルはそれに対して複雑な表情をした。
「兄さんも多少は学んでるんだねえ」
「そりゃあな、あのままでいつも俺が動揺して慌てふためいて…ってパターンだろ?わかってるんだよ。」
「兄さんの真っ赤になった顔見るの好きなんだけどなー」
「そりゃあ、残念なことでしたね。」

 今回は勝ったとばかりに、エドワードは表情を崩そうとしたが…突如目の前に差し出されたものに目を丸くする。

「はい、あーん。」

 アルがケーキを一口サイズにスプーンに取り分けてエドワードの顔、正確には口の前に差し出してきた。一口サイズのブラウニーと生クリーム。

「アル君…?」
 動揺を見せずにすんだと、勝ち名乗りを上げようとしていた矢先だったが、先ほどのことなどすっかり飛んでしまった
「はい、あーん。ダーリン♪」
「あのーアル君、これを食べろっていうの?」
 こんな公衆の面前で、馬鹿ップルの代名詞のような行為をすることは、エドワードにとっては恥ずかしい以外のなにものでもない。長男とか長女とかってのは、大体において体面を気にするタイプが多い。末っ子は愛情をどーんと態度で表現するタイプが多い。エルリック兄弟はこの典型的タイプだった。
「あーん、ダーリン?私の愛情を込めた一口が食べられないの?」
 アルは空いた手で顎に手を添えて、首をちょっとだけ傾げる。計算ずくのこの動作。周りには「可愛いカップルが食べさせあいっこしている」と映るだろう。 ただ、それだけってエドワードもわかっているが、わかっていても心の整理がつかない。
「あの…」
 エドワードはとうとうしどろもどろになってしまう。耳まで真っ赤になっている。額にはうっすらと冷や汗が浮かんでいる。
「私の事好きじゃないの?好きだったら食べられるよね?」
 さらにずいっとスプーンを差し出す。あとは、エドワードが口を開けるだけだ。
 世間一般では兄弟は仲良すぎるのは変であるという「常識」があるからそれに従おう、なんて理由つけているが、やっぱりどんな事言ったって恥ずかしいのだ。
 アルにしてみれば、普段は人前でいちゃつくことなんでできないから、今ばかりはカップルに間違えられたんだから、これはチャンス、誰にもはばかることなくいちゃくつことができるなんて思ってしまうわけだが、兄弟といえども根本的な性格の違いはいかんともしようがない。

 だらだらと、汗をかくエドワード。次第に赤を通り過ぎて、真っ青になってきている。

 ― ここまでやっちゃあ、可哀想だよな、兄さんこういうの絶対的にできない人だしな。悪ふざけがすぎたかな?

 差し出している手が疲れてきた頃、アルはそんな事を思って少し反省した。

 ぱくっ。

 「美味しいな。」
 諦めて手を下げようとしたとき、エドワードがぱくっとスプーンを咥えた。
 そして数回咀嚼してから、飲み込んだ。
 
「トイレいってくるな、あとお前食べちゃってくれ。」

 エドワードは血の気が戻ってきてまた真っ赤になった顔を少しだけてで隠して立ち上がり、アルの言葉を待たずにテーブルを離れた。

「…」
 アルは自分で仕掛けたことだったが、ただ、ちょっと困らせるだけって思ってた。
 まさか、やってくれるとは…時間差でアルの頬も赤くなっていた。

 一方、エドワードだが、トイレのドアにもたれかかり、大きく息を吐いていた。
 そんな事できるか!」ってはねつけることもできた。でも、なんだか無理をしたくなった。自分の心に反してでも。


「まったく困ったもんだ…」
 エドワードは、言葉で説明できない気持ちを持て余してしまったが、たった一人の誰かの為に振り回されるそんな気持ちを心地よくも感じている自分にも気付いていた。

 2人はまだまだこれからである。   


先日、無時那の尾久良さんとゆかいな仲間…じゃなくて、斎木さんとリョウさんと新年会をしたんですが、そのときのデザートを食べて、それぞれ課題としてアルエドで何かを書こう!という事になりまして。
 この、Xmasケーキを食べての課題となりました。本当は棒倒しっぽく倒したら負けでその罰ゲームっぽい話だったんですが…

あれ?

 新年会が1月20日だったんですが、私がラストです…1週間以内に見事皆さんは課題を出しました。
 おかしいなあ?みんな乗り気じゃなかったはずなのに?