生身アル 大人アルとエドワード
年齢差は1歳くらいの感覚で。
「俺の、アルフォンスに何するんだよ!よくも…アルの顔に傷をつけてくれたなあ…」 いつもは、多少の小爆発こそ重ねるけれど、本気で怒らない、もし、猫のように体毛があったとしたら、隅々までの毛を逆立てて、そして背後にオーラがあるとしたら、炎のような色をまとっている、エドワードがそこにいた。 「兄さん・・・?」 通りがかりにいかにも柄が悪そうな2人連れに因縁をつけられたエルリック兄弟。客観的に見ればあちらがぶつかってきたのだが、そんな道理が通じるような相手ではない。 「兄さんに謝って下さいよ」 至極冷静な判断の元に、謝罪を求めたアルフォンスだった。 「アル、そんな奴ら相手にしたって仕方ない。俺に怪我はない、いこうぜ」 ぶつかって、転倒までさせられたエドワード自身がこういっていたが、アルフォンスは納得がいかない。さらに詰め寄った。 「ちゃんとするべきところはちゃんとしないと。明らかに、あなた方のほうがぶつかってきたじゃないですか?そんな事もわからないんですか。…ああそうですよね、あなた達にはどうやら頭脳に記憶装置ってモノがないんですね。そうやって、自分のした非礼さえも、気付かずに当り散らすことができない、下等生物でしたね、そんな人に謝罪なんて求めた自分が愚かでしたよ。犬だって、怒られれば殊勝な顔を見せるっていうのに、それ以下の生物に高度な事を求めました。」 アルフォンスはいつまでたっても、態度を改めない相手に対して罵詈雑言を立て板に水のごとくに続けた。 さすがに、下等生物…にもその悪意は伝わったらしく、とうとうあからさまに手を上げた。 裏を返せば、アルフォンスはこの機会を待っていたのだ。 相手をぼこぼこにしてやりたい衝動に駆られたが、先に手を出したらまずい。あちらから手を出してきたならば「正当防衛」である。「あちらから手を出してきたもので」と、完膚なきまでに、足腰が立たないほど叩きのめすつもりだった。 そして、それはアルフォンスのもくろみ道理に起きた。 しめた!とアルフォンスが思った直後に、頬に軽い痛みが走った。でもそんな程度の痛みは、アルフォンスが今まで経験してきた痛みに比べれば、頬をなでる程度だ。 誰にも知られぬように、アルフォンスが口角を上げて小さく笑いを漏らして、行動に移ろうとした矢先に、違う気配に気付いた。 「俺のアルフォンスに何をするんだ!」 一番近くにいる、弟のアルフォンスでさえ見た事がないエドワードの怒りの姿がそこにあった。 「アルフォンスのきれいな顔に何するんだ!お前その代償を体で払ってもらおうか!」 アルフォンスが、しようと思った事、つまり相手をぼこる事をエドワードが率先して…いた。 「に、兄さんちょっと!」 いくら感情が高ぶっていても、他にもっと感情を荒げた人がいるとかえって冷静になってしまう、まさにそんな場面だった。 エドワードの姿を見て、アルフォンスはすっかり喧嘩をなだめる側になってしまった。 「ちょっと、やめてよ、兄さん。ぼくは大丈夫だから…!」 アルフォンスは先程の好戦的な思考を神棚において、なだめようとした。相手がどうなろうと知ったことではないが、いくら体術に優れているエドワードでもこのまま続けると万が一に怪我をする可能性だってある。それはアルフォンスの本意ではないからだ。 「お前は引っ込んでろ!」 エドワードは、相手の拳を左に避けながら、視線だけ弟に向けて叫ぶ。 「ぼくがやめてって言っても?」 相手の片方が、アルフォンスが参戦してきたと勘違いをして、これまた足で腹部辺りを狙ってくるが手刀で方向をかわす。 「うるさい!こいつらは…」 「え?もうやめてよ!」 相手は、そろそろ息も切れてきたというのに、喧嘩の最中にもかかわらず、ちゃんと会話をこなす兄弟。その余裕な様が相手をさらに刺激をしているようであったが、無駄な体力を損なわないように、ぎりぎりの線で攻撃をかわしながら、二人は会話を続けた。 「お前に傷をつけたんだぞ!こいつらは。」 「こんな傷、たいした事ないじゃないか!」 「でも許せない」 「組み手とかしたりしたらこのくらい、いつも怪我するじゃないか?それと比べてみれば…」 アルフォンスは譲歩案を出してみた。実際、そうだったから。 「お前を傷つけてもいいのは!オレだけなんだよ!どんな時も。あの時だって!オレだけなんだよ。」 エドワードは、その台詞をひときわ大きな声で、まくし立てた。 その声の大きさに、一瞬、相手の攻撃がひるんだ。もちろんアルフォンスの動きもだ。 アルフォンスは、すぐに冷静になりその隙を突いてエドワードの腕を引っ張り、相手から引き離し、そして、そのままダッシュした。 「お、おい!アル。まだ終わってない!」 腕を引きずられるようになっているエドワードの言葉を無視して、アルフォンスはおってこられない場所まで走り続けた。 相手は、組み合いそのもので体力を消費していたので、追ってくる気力はないと思われたが用心の為街外れまで逃げた。 「もう、兄さんってば…」 建物の隙間に入り込んで、ようやくふたりきりになった時にアルフォンスは口を開いた。 「僕が怪我した事、そんなに腹立ったの?」 アルフォンスは、エドワードの腰に手を回しつて、じっと目を見つめた。 「当たり前じゃないか…、跡が残らなければいいんだけど…の野郎、アルの顔に…」 エドワードはまだ殴り足りないとばかりに、顔をしかめる。 「顔なんて、皮膚の薄皮一枚のことで何ってるのさ?」 「なにおう!きれいな顔が台無しじゃないか。」 エドワードは大事なものを侵害されたと、まだ頬を膨らましている。 「それとも…僕の顔に傷があったら…僕はだめ?兄さんは好きでいてくれない、僕のこと?」 「そんなことあるかよ!どんな姿でもアルはアルだ!」 「それでいいじゃないの?ね」 一言ごとに、近くなっていく二人の体。 「最高のくどき文句だね…」 アルフォンスは、そういうとそっと唇を寄せた。エドワードはゆっくりと瞳を閉じる。 要するに。自分が傷付いたりするのはまったく気にしない二人だが、相手が傷つけられるのがたまらなく許せないという、熱い熱いカップルのよくある日常の一こま。 『君子危うきに近寄らず』 兄弟に絡んだ、知能の足りないならず者が身を持って知ったことわざであった。 |
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パトレイバーの野明の「あたしのアルフォンスに何するのよー!」から思いついたネタです〜。 いやあ、ほんとメモ程度に書いてみたんですが、なんとなくかけてしまったのでアップしてみました。 それにしても、これってアルエドの気分ではありますが、とりようによってはエドアルですよね…どっちだろう? |