ハイデリヒとエドワードの初めてのクリスマス!
05.12/25 UP
「なあ、アルフォンス、どうして教会前に出店が出てるんだ?」 ただいまの合図もなく、エドワードはダイニングチェアーに座っているハイデリヒに向かってコートを脱ぎながら質問する。 「お帰りなさい、エドワードさん。寒く なって来ましたが大丈夫でした?そのコート一枚で。」 「おう、まだ昼間はあったかいから暑いくらいだった、ほれ、これ。」 コートを脱いで、手に持っていた紙袋をハイデリヒに手渡す。 「あ、サラミ!ありがとうございます〜たまには食べたいですもんね!って、これどうしたんですか?」 ハイデリヒは改めてエドワードを見て首をかしげた。 「だ、か、ら、教会前の出店は何で出てるんだよ?って、今言っただろうか?」 「教会前に出店が出ている」と「教会前の出店で買ってきた」は同義語じゃないんですよ?って、突込みを入れようと思ったが、それはそれ。 エドワードが、この部屋に転がり込んできてから、まだ数ヶ月であるが、彼に言葉がやや足りないこと、それが充分にわかってきた。ハイデリヒは、適度に頭の中で注釈を付け加えて、理解するのも慣れてきた、そんな時期だった。 「あ、の、ですよね。あれは『クリスマスマーケット』ですよ…?」 ハイデリヒは、シンプル イズ ベストに説明する。 「…なんだよそれ?」 エドワードは首をさらにひねる。 「え?クリスマスマーケット…」 「だから!クリスマスってなんだよ!」 エドワードは、イラついた表情になってしまった。 「あの、もしかして、エドワードさん、『クリスマス』って知りませんか?」 ハイデリヒは恐る恐る聞いてみる。 「知らない!だから教えろ!」 エドワードはいつまにか両手を腰に当てて、仁王立ちになっている。いかにもえらそうなその態度。エドワードらしいと言えばエドワードらしい。 まったく、これが人にものを聞く態度ですか?と、ハイデリヒはこれまた心の中で呟く。 街中は、金と銀の光の海。 11月も中ごろ、夜の時間が明るい時間を徐々に侵食しつつあるこの時期。その夜の闇を迎えるように町は活気づく。火事にならないように、教会前に控えめに準備されたろうそくの火は優しく通る人と照らし出す。 長い夜を楽しむ準備。その入り口のクリスマスに向けて、人々は集う。 もちろん、敗戦後のこの国で。何もかが欠乏する人々が準備できるものはたかが知れている。でも、だからこそ、楽しむ努力をする。 その象徴ともいえるクリスマスマーケットとは大きな都市の教会や駅周辺に多くの出店が集まる市場である。中心には巨大なツリーなどがお目見えする。大きな都市では移動遊園地なども出現する。多くの店は、この時期ならではの、クリスマスオーナメント、人形、おもちゃなど、クリスマスならではのギフトを売る店。そして、それを見に来る人が食べる焼きソーセージの店など、クリスマスのムードを味わう為に多くの地元の人がそこに集まる。それらを買う、買わないというのは別として、店を眺めるだけでも、心躍る。 ![]() 「よう、そこのお兄ちゃん〜、安くしとくから買っていきなよ?いまなら、このカゴ丸ごとで10マルクだ!どうだい?ちょっと食べてみてよ!」と景気よい肉屋のオヤジに声をかけられた。 そのマーケットがなんんであるかはわからないが、そこが「肉屋の出店」であって、そのオヤジが勧めているサラミは「お得」であって、味も「美味しい」のはわかったので、ひとカゴ買ってきたのだ。 「クリスマスって言うのは、キリストの降誕を祝うお祭りで…」 「キリストって?」 エドワードは速攻で聞き返す。 「…」 キリスト教でなくてもクリスマスくらいは知っているはず…と思っていた常識がまったく通用しない。ただ単に知らないのか、それとも。 別世界からやってきた、って何度も聞いていたが今ひとつ信じ切れていなかったハイデリヒだが、このときばかりは、信じてしまいたくなる。 「キリストというのは、キリスト教の創始者で…」 ハイデリヒはそこまでいって言葉を濁す。どういっていいのかわからないのである。敬虔なるキリスト教徒のハイデリヒにとって、イエス・キリストは信仰の対象であり、その生い立ちなどにかんする知識は豊富ゆえに、一言で表現するのは至難の業だった。民族としての価値を見出した宗教的指導者、または、預言者、救世主など、彼を表す言葉は沢山ある。しかしとりあえず、キリスト教について超初心者であるエドワードにわかりやすい表現賭したら、これしか思いつかなかったのである。 「つまり。キリスト教って宗教の創始者を祝う祭りなんだな。それにしてもでかい祭りだな〜」 言葉に詰まる、ハイデリヒのいった言葉をエドワードは、至極簡単にまとめる。 「まあ。…そんなところですね。」 ハイデリヒは、小さく溜息混じりに返事する。 2000年近い歴史のある宗教に関して、もっともっと時間をかけて説明したい衝動に駆られるが、自分が10年近く勉強してきた自分の根底を作るその思想を説明する自信がなかった。 「ふーん。」 エドワードの宗教観について、今ままで聞いた事はなかったが、その返事で、なんとなく神などに対する信仰心が薄い事をハイデリヒは感じ取った。 「まあ、ひとつのお祭りですよ。あ、エドワードさん」 ハイデリヒは、可もなく不可もない言葉で締めくくろうとしたが、ある事をふと思い出した。 「は?なんだよ?」 「グリューワイン飲みにいきませんか?」 「グリューワイン?」 エドワードはオウム返しに聞きかえす。 「それは、みてのお楽しみです!さあ、いきましょ!ほら。」 ハイデリヒは、思い立ったが吉日とばかりに、エドワードの腕を左腕を掴む。 「ア、アルフォンス!俺は…たった今、帰って来たのであって…!」 引きずられるようにドアに連行?されるエドワードが必死に抵抗する。 「まあ、いいじゃないですか?たまには一緒に楽しみましょうよ。毎日研究室とここの往復なんですから!たまには息抜きが必要ですって!…一緒にいってくれないと…明日からご飯作ってあげませんよ〜?」 ハイデリヒは、にっこりと呟く。そう、この空間において、エドワードには拒否権はない、それを重々承知で、ハイデリヒはその権力を行使する。 「…わかったよ。行きゃあいいんだろ?」 エドワードはしぶしぶ承知して、一度脱いだコートを再び着る。 「はいはい、素直でよろしい。じゃ行きましょ。」 肩を軽くぽんと叩く。いつの間にか出かける準備ができていたハイデリヒとエドワードは連れ立って、部屋をでた。 ![]() 賑わいが最高潮の時間に、二人はクリスマスマーッケットの会場にたどり着いた。何処からともなく香るつーんと鼻につくアルコールの香り。においだけで酔ってしまいそうなその空気である。 なんで?エドワードはそう思った。行くらみ青年といえども、酒も多少は飲む。研究室の多くの学友は自分より年上が多く、彼らとの付き合い程度ではあるが、多少なりとも嗜みはある。でもこんなに強く香るワインは初めてだった。 「におうでしょ?でもいい香りだと思いませんか?」 少し顔をしかめているエドワードにすかさずハイデリヒは突っ込みを入れた。 「グリューワインといって、赤ワインにレモンやオレンジ、砂糖を入れて温めるんです。時には香料なんかも入れているお店もありますが、寒い夜には温まるんですよ。あ、ちょっと待っててください。」 ハイデリヒがエドワードを手でストップと、ここで待っているようにゼスチャーをしてから、香りの発信源のお店に小走りで向かった。 しばらくして、両手に二つのマグカップと共に戻ってきた。 「はい、これが、グリューワインですよ。」 先ほどまでしていたアルコールの香りより、近くでかぐと甘い果実の香りのほうが印象的だなあ、エドワードはマグカップを受け取りつつ、そう感じた。 エドワードは、ハイデリヒがふー、と冷ましながら口をつけたのを見計らって、それを真似る。口の中に広がる、ワイン特有の舌と口の中に広がるあったかい感触が瞬時に広まる。 今まで味わったことがない柔らかい感触に、エドワードは思わず顔をほころばせた。 「美味しいですか?」 こちらも、にこやかな笑顔のハイデリヒ。思わず二人は、顔を見合わせてお互いのマグカップを。カチンと鳴らした。 |
アメストリスにはクリスマスもバレンタインないじゃないですか?(原作12巻参照!) なので、きっと扉の向こうからやってきたエドワードにとってまったくの未知なる経験のはず!ってことから。 なので設定としては、1922年くらいでしょうか?来た直後は気付かなかったと思うので、 1922年ホーパパがいなくなって、ハイデのうちに転がり込んで ってあたりです。 さてクリスマスマーケットは…ほぼ実話です〜、去年モロッコ行ったときにわざわざドイツを経由してクリスマスマーケットを堪能してきたのですが まさか、まさか。こんなことに役立つとは。 サラミを買ったのも実話です。 実は…続きます!「ベツレヘムの星」 |