ハイデリヒの 「おねだり」 

05.11.13 UP


「お前って今、何が欲しいの…」
 夕食も終わって、食後のコーヒーを二人で楽しんでいた時。エドワードは突然切り出してきた。
「ええと…」


 何かとすれ違いが多いハイデリヒとエドワード。どちらかというと朝型のハイデリヒ。彼は朝に起きて大学に赴き、研究をする。その反面エドワードはお昼過ぎに起き出して、リビングで紙面を広げて研究にいそしむ。必要な文献をミュンヘン大学に取りに行くこともあるが、それも午後に出て行けば間に合う。タイトルさえわかっていれば「アルフォンス、これ借りてきて」といとも簡単にハイデリヒにお願いすれば用が済んでしまうのだ。
 ハイデリヒは実験などの場所と用具が必要となる研究がメイン、エドワードは燃料の燃焼実験の理論立証など頭の中で考えることが多い。
 その結果、世間一般の生活を余儀なくされるハイデリヒと、拘束時間がないエドワードの間には生活時間のずれが生じる。

 だから、二人の生活時間がちょうど合うこの夕食の時間を大切にしていた。できるだけこの時間は家にいるようにという無言の約束を交わしていた二人だった。


「あ、ちょうど、ワインが切れていたんですよ。調理用の。昨日は、いつもの晩酌用のを使っちゃったんですが…ちょっともったいないので…料理用のを買ってこないと…」
 思い出したように、ハイデリヒは握った右手で左の手ひらをぽんと、たたく。
「…」
「ああ、そうですね…そういえば、油も切れそうですね…まだこちらは大丈夫ですが…」
 次々と、述べる。このままでは台所で欠品チェックをしそうな勢いだ。
「…あの…アルフォンス…そういった…食品とかじゃなくて…欲しいものはないんですか?」
 エドワードがよくみると眉間に皺を寄せている。
「…ええと、そうですね〜じゃあ、バスマット。ほつれちゃって、僕前転びそうになったんですよ…あれを新品にしても…罰は当たりませんよね?」
 両手を組んで、祈るようにハイデリヒは明後日のほうを向き次の要求を述べる…
「他に!」
「そうですね…あとは…カーテン!これ前の方が使っていたカーテンじゃないですか?生地が薄いじゃないですか?だから、朝日がまぶしくって…」
 次々に日常生活品の欲しいものを生き生きと語るハイデリヒに対して、エドワードの表情はどんどん険しくなっていくが…それに当のハイデリヒは気付かない…

「アルフォンス君…?」
 いつまでも、どうしてこれが欲しいかを語り続けそうなハイデリヒを、きわめて冷静にエドワードは制した。
 いつもと違うその口調に、ハイデリヒはようやくエドワードの表情に気がついた。
「あれ…欲しいものでよかったんですよね…?」
 自分が的外れな返事をしていたのでは?とようやく気付いた。

「…欲しいもの…って確かに言ったけど…」
 大きくため息をつくエドワード。
「えええ?だから欲しいものを…」
 困ったようにハイデリヒは、答える。欲しいものと聞かれたから、今欲しいものを羅列していたったのであって…?と首をかしげた。

「もっと…日常のものじゃなくて…特別に欲しいものとかないのかよ…?」
 エドワードは、椅子に座るハイデリヒの隣に立つ。自分よりやや長身のハイデリヒを、いつもは見上げるのだが、今回は見下ろしてみる。
「ええと…」
 エドワードの真意を図りかねて…言葉を濁す。
「だから…」
「…欲しいものなんですよね…?」
 お互い、腹の探りあいをする…が、きょとんとして目を丸くして自分を見るハイデリヒを見て…エドワードは自分の失態を自覚する。

 こいつには…はっきり言わないと…いけないんだ…この鈍感には…と心の中でエドワードは思って。

「こ、明日は…お前の…誕生日って…だから、プレゼントだよ!」 
 
 まっすぐに顔をみないで、そっぽを向いて、ついに言った。

「…た、誕生日…僕言いましたっけ…?あれ…?言ってないはずですよね?」

 思いもよらぬ発言に思わず、切り替えしてしまった。でもはたと気付く。本来なら
まず、憶えてくれていて、ありがとうって返すべきだったのかと…?でも時すでに遅し。

「…グレイシアさんに提案されたんだよ…みんなでお祝いしましょうって!」
 
「あー、」
そういえば…数日前に、階段を上がろうとした時に声をかけられて、誰かの誕生日プレゼントの話しになったついでに自分の誕生日を話した事をハイデリヒは思い出した。

「『あー』ってなんだよ…!」

 エドワードは語尾を荒げる。
「な、なんでもないです!でも…この歳になると誕生日なんて今さらですしねえ…?」
と人差し指を顎に当てて、青年らしからぬ可愛らしい格好で、エドワードをなだめようとしてみる…
「…」

「あの…欲しいものが的外れであったことは認めますが…なんで怒ってるんでしょうか…?」
このままではいけないと、即座に理解したハイデリヒは、溝が深まらないうちに素直に聞いてしまった。

「…」
「あの…?エドワードさん…?もしよかったら答えてくれると嬉しいのですが…?」

沈黙…

「あの…?」

「…お前が、俺にちゃんと言ってくれなかった…」

「へ?」

「お前が!直接!オレに!教えてくれなかった!」

「は?」

「だから、何でそんな大事な事を、他の人から知らされないといけないんだよ!」

「ほ?」

「…俺は直接お前から聞きたかった!」

…なるほど。ここまで言ってもらえて、ようやくわかった。
 つまりエドワードは直接教えてもらえなかったのが引っかかっていたのだが、それをいえなくて。 だから、誘導しようとしていたのだ、「欲しいもの…そういえば、明日は僕の誕生日なんです」って。

「ご、ごめんなさい…エドワードさん。でも、誕生日なんて教えるとプレゼントを要求するようなもんじゃないかと…?」

 ハイデリヒは、エドワードのご機嫌をとるように、上目遣いで…こちらは語尾をわざと柔らかく…

「…でも言って欲しかった…。もうちょっとお前…わがままになれよ…一緒に暮らしてるんだから…」

 エドワードも、ただ単に思いついた事を口にするだけの子供ではない。ちゃんとハイデリヒの思いもわかっているのである。
 でも、一緒にいるからこそ…ちょっとは、自分に対してもっと話して欲しい。要求して欲しいと思うのだ。

「…ごめんなさい…」
しゅんとしてしまうハイデリヒ
「ああ、お前を落ち込ませる為に言ったんじゃない!!…だから、こう、ああー、だからな。お前は、俺に迷惑をかけるとか思っていると思うけど!そうじゃないんだよ!」
 痺れを切らして、エドワードがまくし立て始める。
「だからな、ええと、なんと言ったらいいんだよ…?他の奴なら迷惑と思うようなことでも…自分にとって大切なやつの言うことは、それは迷惑じゃないんだよ!だから…お前にな…」

 エドワードは言葉を区切って。一呼吸おいて

「俺はお前に…、これがして欲しい、あれが欲しいってもっと言って欲しい!俺がお前に要求するように…俺たちもう…」

 さすがにエドワードはそれ以上いえなかったが…ハイデリヒは察した。

「エドワードさん…」

 思わずその勢いに押されてしばらく二人は、黙ったままだった。


「じゃあ、プレゼントまずひとつ『おねだり』してもいいですか?」
ハイデリヒは照れたように呟く。

「な、なんだよ?俺にできることなら何でも。…できることだからな!」
暗に、俺が望まないことはしない、できることだけだぞと念を押す。

「大丈夫ですよ、何簡単なことですって。手をかしてください。」
「…?」
 ハイデリヒの意図がわからずに、素直に左手を差し出す。
 その差し出された左手をハイデリヒは手を添えて、そして手のひらを上に向ける。
 そして、優しくそっと口づけをする。

「な、何するんだよ…?」

 顔を真っ赤にして、慌てて手を引っ込めようとするエドワードだったが、その前にハイデリヒの手が掴まえていた。

「誕生日プレゼント、ありがとうございました」
 ハイデリヒもちょっぴり、顔を紅くして答えてから手を離す。
 呼吸を荒くしていたエドワードだったが、ふと冷静になる。

「…こんなんがプレゼントでいいのかよ…?」
 
 これ以上の事を望まれてしまっても困るのだが、これだけではプレゼントにはならないのでは?と。

「充分ですよ。今はね。次は…」

 わざと終わりまで言わないハイデリヒ。

「次は…って」
 顔を引きつらせてしまうエドワード。

「そうですね、次。だって『もっとわがままになって欲しい』んでしょ、僕に。頑張りますね!エドワードさん」

何を頑張るんだよ…?と聞きたいが…なにやら聞いてはいけない雰囲気を察して
照れ隠しに別部屋に移動するハイデリヒを見送った…。


 11月8日に かなり真面目な話を書いてしまったので
 「ラブが足りないわ…」と。 すいません、これが限界です…涙。

  でも、私は可愛い話を書くのがすきなんですよ〜。ぬるいと言われようが!スキなんですよ!

  手の甲にキスはすごく当たり前なんだけど…私は「手のひらにキス」ってすごく萌え萌えしちゃうんですよ〜。
  なので、ハイデリヒに頑張ってもらいました。
  
  でも手のひらキスをあっと間にこなしてしまったハイデリヒ…恐るべし、天然…!

  私の書くハイデリヒって気分によって かなりへたれになったり、鬼畜になったり…何故でしょうか?

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