11月8日  「お前が望んだこと」 ハイデリヒ追悼記念

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05.11.8 UP



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 「ようやくお前のことをじっくり考えることが出来るようになった…」
墓石にに刻まれた名前を指でなぞりながら、呟く。

お前は、幸せだったのか?俺と出会わなかったら。
もっと長生きできたのかもしれないんだぜ?

『もし』なんて。いったらキリがないよな?
もう俺たちは出会ってしまったんだから。そして今がある。

でも。俺は…お前と会えて…よかったと思ってる。
背伸びする事ない、穏やかな時間があった。悪くなかった。

最初は、こうるさい奴だって、そう思った時もあったけど
だって、脱いだものをその辺に放るなとか
お前はいちいち煩かったよ、

 日常の些細な一シーンを一つ一つ語りだすエドワード。
 一通り、語りつくした後に。

「…俺、この世界で生きてていいか?お前がいなくても?…でも、もう戻るつもりもないし…方法もないから、お前が『帰れ』っていっても出来ないんだけどな。」
 
「アルフォンスは、それを望んでましたよ」

エドワードは、独り言として呟いた言葉に、返事があったことに驚いて、振り返る。
そこにはゲオルグが自分と同じように花を抱えてたっていた。

「ゲオルグさん…?どうしてここに?」
旅の道中であった旅人同士、また会いましょうと言っても、会えることはない。
でもゲオルグはここにいる。
「…エドワード、あなたと同じ墓参りですよ」
そういって、エドワードが手向けた花の隣に同じように花を置いた。
「あなたは…?」
「エドワード、あなたは、以前にブラウンと会ったことがありませんか?」
「ブラウン…」
 ブラウンは、オーベルトに会わせてくれと、たずねてきたハイデリヒの母方の従兄弟ウェルナー・フォン・ブラウン。12歳とは思えない聡明な少年だった。ハイデリヒはその年下の従兄弟を可愛がっていた。
エドワードは、そこではたと気づく。
ウェルナー・フォン・ブラウン。そして、ゲオルグ・フォン・ブラウン…
「あなたは、アルフォンスの…お祖父さん…ですか?」
「はい、あの子は昔からよくこの自分を好いてくれましてね…」
そういって、アルフォンスとにた面立ちをしたゲオルグはアルフォンスと同じように自分に微笑みかけた。
「…」
 彼の早すぎる死の一因になってしまったかもしれない自分の存在をどう思っているのか?そう思うと思わず口をつぐんでしまった。
「エドワード。彼の体を蝕む病気のことは知っていましたか?」
「…薄々は…」
「多少のずれはあっても、長生きできないのなら…誰かのために生きたのなら、それで十分なんですよ」
「…」
「これを読んでください」
 そういって一通の手紙をエドワードに手渡した。

敬愛なるおじい様へ

お元気ですか?ご無沙汰して申し訳ありません
オーベルト先生の研究室に入ることが出来てから
研究についてついていくのが必死です。
寝る時間もないほどですが、僕が望んだ夢に一歩一歩
確実に近づいているそんな実感が出来ます。

でも。僕には時間がありません。
すでに母からも聞き及んでいると思われますが
肺病と診断されました。

本来、直接伝えなければいけないことと思いますが
時間がないと、それを理由にこういった文書で
お伝えする勇気のない自分をお許しください。

夢の達成と僕の命の限界、どちらが先か?
それを常に考えてしまいます

でも不思議と怖くありません。
もし僕の限界が来ても、僕は何かを残します。
今傍にいる彼に。
エドワードという、友人に託します。僕の夢を。
彼が生きてくれる事が、僕のもうひとつの夢です。
彼と出会えた事が、僕の人生の最後のプレゼントでした。

でも唯一の心残りといえば、彼を、おじい様に紹介できなかった事でしょうか?
今の僕にとって命をかけたいと思えるほどの大切な存在を。

最期の挨拶を直接出来ない自分をお許しください。
おじい様をご健勝を祈っております。


「これが、アルフォンスが自分にあてた手紙です。あなたが生きていることが、あの子の望みなんですよ。」
 エドワードはたまらずに手紙を握り締めそうになってしまった。
「今日はあの子が旅立った日ですから…もしかしたらここに来れば会えるかな?と思いましたが。偶然はあるもんなんですね。一目でわかりましたよ。あなたがあの子が命をかけて大切に思った相手だと。あなたが自分を見つめる瞳でね…」
 そっと肩に手を置いて、丁寧に話す。
「…アルフォンス…」
 そのやさしい感触に、思わずハイデリヒを思い出す。

「ありがとう、あの子の思いを受け取って、生きてくれて。」
 ゲオルグは脱帽し、頭を下げる。
「そ、そんなやめてください。俺…自分のほうこそ…」

 礼を譲り合うお互いに、つい笑ってしまった。
「し、失礼。こんなことをあの子は望んでないな…」
「そうですね。ゲオルグさん」
「じゃあ、エドワード君。あの子の話を改めて聞かせてくれないか?どんな生活をしていたのか?」

「ほら、お迎えが来たようですよ?」
 墓石の前で、ハイデリヒについて話していた時に、ゲオルグが後ろを指さして言った。エドワードが振り向くと、そこにはノーアとアルが立っていた。
「お、おまえら…どうしてここが?」
 慌てて二人の下に駆け寄る。
「メモを見て…僕たち待つつもりだったんだけど…新聞でね、あの暴動からそろそろ一年、社会主義労働者党の動きについて報道されていたから…それで気づいた…」

 二人は、そのニュースを見るまで気づかなかった自分たちを責めていた。

ハイデリヒの墓石の前で膝をつき、ゆっくりと黙祷を捧げた。
二人は会えて何も言わない。心の中でそれぞれハイデリヒに向かってそれぞれの思いを伝えただけにとどめた。

 エドワードは二人の行動を見守っていたが、しばらくしてゲオルグの姿が消えているのに気づいた。

「さっきの方はどなた?アルフォンスさんの関係者の方?」
 黙祷を終えた、アルがエドワードを見上げた。
「…そうだ…な」
 歯切れの悪い返事にアルは、怪訝そうな表情をした
「会話の邪魔しちゃったのなら…まだ会話終わってなければ…追いかける?まだ間に合うと思うよ…?」
 アルはエドワードを後押しするように、促した。
「…いいや。」
「なんで?まだ間に合うよ?」
 自分たちが話をさえぎってしまったのを気にしているのか、再度追いかけるように薦めるがそれをやんわりと断る。
「大丈夫、また来年ここに来れば会えるような気がする。あの方と。」
「いいの?それで?」
「いいんだよ、こいつも。それを望んでるよ」
 ようやく墓石をまっすぐ見つめた。今度は反らすことなく。

「じゃあな、アルフォンス。また来るぜ。ちょっとまだ探し物が落ち着かないから…ちょくちょくはこれないけど…一年後には絶対来るからな」

そういうと、颯爽と墓石に向けて背を向けて歩き出す。
「兄さん待ってよ!」
二人は慌てて、立ち上がり膝についた草を払う。エドワードを追いかける。

鉛色の雲が晴れて、青空が顔を覗かた。

(また来るからな…)

 エドワードは心の中で青い空に向かって改めて呟いた。

 (注意)
 ウェルナー・フォン・ブラウンはアポロ計画に携わった、オーベルトの次の世代で活躍した技術者です。
 「2Years」という過去に出した本で ハイデリヒと母方のいことという設定にしたのをここでも活用させてもらいました。
 ブラウン家はそれなりに財力があったようなので…そこからハイデリヒは生活資金の援助を受けていたのでは?って。、そうしたほうが、しがない未成年が
 インフレが続くミュンヘンで生きていけるわけないもん…


 思った以上に長くなってしまいました。
 11月8日に何か記念になる小説をアップしたいと考えて、いたらふと思いつきました。墓参り。
  でもゲオルグとあわせるのは、話を書いていて思いつきました。本当はアルがひとりで迎えに来て、アルエドテイスト…だったんですが
 ハイデリヒ追悼記念なので エドワードの心はハイデリヒで一杯になってもらいました。

 話の核としては…10月28日の「再会の日」と同じで、1年後に、思い出すって感じになってしまうのですが…
 でも、これしか思いつかなかったんです〜。
 
 旅先での、車内の出会いなどは、自分の経験を活用させてもらっています。
 海外で旅していると、日本人女性一人旅だと、面白がって声をかけてもらえることが多いです。

 ハイデリヒが一つも出てこない…
 


 ラブラブハイデリヒ小説を書きたい…欲求不満になっております。でも某人からは「楓さんの書くハイデリヒは鬼畜ですよね!」って!そ、そうですか…?

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